山陽本線をすっかりなめていた。14時台の山陽本線姫路方面ゆきを逃してしまう。さて次の電車は・・と時刻表を見ると1時間15分ほど後。しかも姫路まで行かないのだ。広島の記事でも書いたが、鈍行の旅でいちばん恐ろしいのは、なんにもない駅で終電を迎えてしまうことだ。宿もなければコンビニもない。へたをすれば自販機さえもない駅だってざらにあるのだ。
まあ夜までには当然最低でも姫路まではたどり着けるし、姫路にはネットカフェもあるだろう。しかしこの日は大阪の実家に帰る予定でいた。うちの実家は名ばかりは大阪だが、ほぼ和歌山である。難波あたりまではたどり着けても家までの電車はすでに終電が出てしまっていた、ということなど1回や2回ではない。


岡山で買い込んだ、つげ義春の「貧困旅行記」などを読みながら、途中の駅で45分待ちをくらいつつなんとか、姫路→神戸→大阪と流れゆく。貧困旅行記は最初の、未婚のころにファンレターを送ってきたファンの女性のところへ結婚を一方的に決意して向かう話がいちばん面白い。逆をいえばそれ以外はさほど、といった感想。大阪から環状線に乗り継ぎ、天王寺へ。天王寺から地下鉄に乗り換え、実家へ到着。夜の8時すぎ。思ったより早く到着できたか。家につくと、母が出迎えてくれた。ちょうど函館を旅行中のマァヴさんから毛ガニが届いたよ、と、母がカニを蒸したものを出してくれる。函館直送の毛ガニはミソもたっぷり詰まり、ほんのり潮の風味がして旨い。夏だというのに馬刺しも出てきた。

翌日は、母を連れて隣駅の寿司屋へ。
好きなものを食べろと言っても母は安いものを選ぼうとする。こういうときの親というのはどこも同じだなと思いながら、母には特上コースでちょこちょこ握っていただくよう注文。で、私のは1980円のランチにぎり。
車エビやらまるで霜降り牛のようなトロを横目で見ながら、安いにぎりをつまむ。

品書きに書かれていた「このわた」に目が留まる。
このわた、といえば北陸の珍味として名高い。
ナマコの腸はほんのひとすじ、ふたすじほどの大きさだが、それらを何十匹分たばねたものが、これ。オレンジ色が鮮やか。何十匹分でこの量だもの、貴重な珍味として扱われるのも頷ける。杉浦日向子の「ごくらくちんみ」にも掲載されている、ナマコの真子(卵巣)と白子(精巣)をたばねて干した珍味は「このこ」(くちこ、とも言う)といい、こちらも北陸の珍味のひとつだ。
このわた、味は、独特。ごはんがほしくなる。そしてわずかに苦い。
母は、珍しがって、ほんのわずかで850円ほどするこの珍味を、おいしいおいしいと言いながらたいらげた。


